2018年09月06日

外国人が熱狂するクールな田舎の作り方

『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』は、飛騨古川地区でSATOYAMA EXPERIENCEを運営する山田拓氏が書かれた本。

外資系企業のコンサルタントとして海外で仕事をこなし、その後世界を500日以上かけて旅している(現在の奥さんとともに)。
海外に出ることで逆に日本の良さを認識し、海外の旅行から帰って後飛騨古川へ移住。

行政の観光アドバイザーとして仕事をするなかから、地元でガイドツアーをやることに。
出発は“飛騨高山サイクリング”として、自転車のガイドツアーを始める。
その後「暮らしを旅する」というコンセプトのもと、ガイドツアーをサイクリング形態に限らずに展開し、“SATOYAMA EXPERIENCE”と名称を改め、他業種や行政と連携して地域の観光、地域の振興に寄与していっている経過が書かれている。彼が主催しているガイドツアーは、世界中の旅行者から高評価を得ており、行政からも数々の表彰をうけるまでになっている。
著者はもともとコンサルタント業としてそれなりのキャリアを積んでいること、英語に堪能であることという自分の強みを生かしており、SATOYAMA EXPERIENCEは日本におけるインバウンドツーリズムの先駆け的取り組みとなっていっている。

読後しばらくしてから、ポイントとなる点をいくつか思い出してみる。

“地域に資するツーリズムとはなにか” 

著者はSATOYAMA EXPERIENCEの活動をするにあたって、常に“地域に資するツーリズムとはなにか”を意識して取り組んできたことがわかる。地域に資するツーリズムとはなにか、それは4つのhappyが生まれることにあるとしている。
“ 一つ目は「ゲストのhappy」。私たちのビジネスは、ツアー運営を通じて対価を頂くプロフェッショナルサービスです。対価を頂く方々のhappyは、言うまでもなく最も大切な要素です。私たちが介在しないと触れることが出来ないであろう思い出深い経験を提供することで、旅人のhappyを生み出しました。
“ 二つ目は、「地元企業のhappy」です。SATOYAMA EXPERIENCEのような遊びの選択肢が増えれば、地域内の滞在時間が増え、自社のみならず地域内の多くの事業者にも顧客が誘導されます ―”
“三つめは「ひだびとのhppy」。ツアーの途中でお相手頂ける方々など、一般住民です。「今日はどこの国のヒトやな?」「ワシらは、居ながらにして海外旅行できるで、エエなぁ」などといった言葉を返してくれる方が少なからずいらっしゃいます。私たちは、皆さんのご厚意に相当助けられているのですが、逆にこうやって仰って頂けるのはとても嬉しいことです。「この伝統的な生活を守るのはご苦労も多く大変でしょうが、素晴らしいですね」と敬意を表してくださるツアーゲストも多くいらっしゃいます。その地に住む価値の再認識になっているのではないかと思います”
“さいごは「ワカモノのhappy」です。これは、他でもない私たち自身を指しています。「仕事がないから実家に戻れない」「移住したくても仕事が……」。これは何十年も前から聞かれる言葉ですが、逆に言うと「やりがいのある仕事があれば地方部でのライフスタイルも成立する」のです―
“私たちは、「観光」というフレームにおいては忘れられがちな「住民のhappy」と「地元企業のhappy」に特に力を入れてきました。渡地たちの「暮らしを旅する」というコンセプトは、資源となる「飛騨の暮らし」が維持されない限り、事業自体が成立しなくなります。「飛騨の暮らし」が維持されるためには、飛騨の原風景とその暮らしの価値を住民と再認識する活動と、観光産業での稼ぎを最大化し、一人の旅行者になるべく多くの地域内事業者の顧客になってもらい、地域内でお使い頂くおカネの量を増やすことの二つが重要になってきます―”


“企業的手法を地域経営へ”

DMO(Destination Management/Marketing Organization =地域経営組織)という言葉が本書にでてくる。私はこれまで知らなかったが、地域振興において最近つかわれている用語のよう。『熱海の軌跡』でも、地域振興はビジネスとして成り立つ事業でなければならないということを著者市来さんが強調していたとおり、行政にお金があったころ、行政主導でいろいろができたころとは近年は事情が大きく変わってきている。
DMO的な考え方の一例として、著者は地方の「移住・定住促進事業」を、企業の人事部機能としてとらえるべきだと書いている。
“ 一般的に、企業の人事部は採用部門と教育・研修部門によって構成されています。採用部門は、組織内の人材ニーズを把握してから採用活動に移ります。また、入社タイミングで不足するスキルや知識があれば、教育・研修部門が育成を担当して現場に配置していきます。この基本プロセスを移住・定住政策にも当てはめようというアプローチで、都市部人材との接点を創る活動と共に、人材を求めている企業とのネットワークの構築や、移住関連イベントへの地域の企業の参画を促す動きを平行して進めています。また、移住検討者や受け皿となる企業や地域コミュニティの意識改革といった教育・啓蒙事業も併せて行うことにより、まだまだ極めて成功率の低い移住・定住の成功確率向上につなげようとしています―”
種々のイベントや体験ツアーで “移住に興味を持ってもらったとして、その先の地には魅力的な仕事がない、仕事がそもそもない、仕事情報が集約されていないという状態では、なかなか実際の移住にはつながりませんー”


“観光からツーリズムへ“

インバウンドツーリズムの第一人者として、著者は観光庁からの依頼で「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」の「観光戦略実行推進タスクフォース」の会議で意見を述べている。その時に彼が述べたことは2点。
“一つは「観光」から「ツーリズム」へ遷移させる必要がある、というポイントです。いわゆる「観光」は、高度経済成長期に日本社会でスタンダードになったスタイルです。日帰りか1泊2日か長くて2泊3日程度の旅行。宿泊形態は一泊2食付きで、宿泊施設の外へ出ることは限定的。個人旅行よりも団体旅行がメイン。”
“一方「ツーリズム」は、世界中の多種多様な旅行スタイルに合わせた多種多様なサービスを提供するスタイルを指します。525日間、世界の28ヶ国を旅した旅人視点でみれば、私たちの訪問先で提供されていたサービスの選択肢は、宿泊、飲食、アクティビティ、移動などいずれのカテゴリでも、日本国内に存在する選択肢を圧倒的に凌駕していましたー”
“つまり、「観光」から「ツーリズム」への変遷は、世界標準のツーリズム産業の幅広い選択肢を、この日本で提供できるプラットフォームを構築することを意味します ―“


“地域に求められる本当のDMO”

DMOを実際に実のあるものとするためにどうすればよいのか。
“シンプルに、一般的なマーケティングを推進できる機能を構築し、その活動をすすめるだけの話です。アメリカ・マーケティング協会が定義する「マーケティング」は、「顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」としています。「一連の制度であり、プロセスである」はずなのですが、現状のDMOは誘客やPRなど、断片的な要素のみに注力しているように感じられてなりません“
“人材面をみても、現存のDMOの大半において、本来必要なマーケティング分野の能力や知識を持った人材が調達されておらず、既存の構成員の再配置にとどまっています“
“(現状からの)脱却)の処方箋。それは、意思決定者自身がマネジメントとマーケティングの理解を深めることです。外部から人材が来てくれればいいですが、人材の外部調達は地方部にとっていろいろな面でハードルが高い。だとしたら、自分たちで勉強し、少しずつでも機能を構築していくより他ありません。”


“地方を創生させたければ「やり続けよ」“

“私自身が行き着いた、形ある成果がなかなか出ない根幹の理由は、「今の豊かさ」ということです。- 現在の日本では、今の世代のことだけでなく数世代先までのことを考えなければ、「危機感」という概念を持ちにくい。支援慣れした地方部を作ってしまった社会構造と、その環境にながらく身を置いた人々が今は豊かに生きられていること。これこそが、SATOYAMA EXPERIENCEのような事業が地方部からなかなか生まれてこない根幹の理由ではないでしょうか。”
“ここでのポイントは「やり続ければ」にあります。-地方部の人口減少は非常に長い時間軸で進んだものですから、地方創生を実現するためにも、それなりの時間や継続した努力を想定しておかねばなりません。国の予算がついたから基本計画を策定しよう、移住・定住政策をチトやってみよう、海外にプロモーションにいってみようというような場当たり的な対応では、全くもって不十分ということです。自分たちの地域の現状に鑑み、地域の将来像を夢とともに描き、その夢の実現に向かって愚直に努力する。これを地域全体で進められるか否かが鍵となると思います。”

“では”、「やり続ける」ために、何が必要か“

“-必要なのは、私たち一人ひとりの意志にあると信じます。自分たちが豊かな毎日を過ごしたいと思う意志、構造的な課題を解決させるために自らが動こうとする意志、日本らしさを形作る有形・無形の価値を継承しようという意志、自分たちの世代以降もその地が「住んでよし、訪れてよし」を維持し続けてほしいと願う意志、こういった意志の総和を必要なサイズで持ち得る地域、国家になっていけば、地方創生は現実のものとなっていくでしょう。”


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2018年08月15日

熱海の奇跡

『熱海の奇跡 いかにして活気を取り戻したのか』は、熱海出身の市来広一郎氏が書かれた本。ネットで著者の市来氏の記事を読んで、興味を持って購入。“かつての熱海の衰退は、日本全国の地方の衰退と同じ構造で起こった”と本書に書かれているが、ネットの記事から熱海の街の回復への取り組みは、日本の他の地方においても参考になることが多々あるように感じた。

著者は学生時代に熱海の街の衰退を目の当たりにし、一度は外資系のコンサルタント会社に就職するも、やはり熱海の街の再生が自らの使命だと一念発起して熱海にUターン。その後これまでの10数年間に街の再生に尽力してきた道のりが記されている。なお氏の活動は現在進行形であり、まだ道半ばという感じで書かれている。著者は1977年生まれなので私より少し若い。
30年前くらいまでは観光地、保養地として大いに盛っていた熱海。それが80年代のいわゆるバブル期の終焉とともに一気に衰退していく。観光客は激減、メイン通りはシャッター街になり、人口の流出、高齢化が止まらない。地元の人が熱海には“見るべきもの、魅力はなにもない”と感じ、将来を悲観している。

そんな状況において、著者はビジネスの手法で、民間が主導で街を再生していくことを目指す。“リノベーションまちづくり”とうたっているが、熱海には衰退する中で空き店舗(店、ビルなど)となっている不動産が多々あることから、それらをあらたな視点から再活用することが活動の柱となっている。また、不動産だけではなく、熱海がかつて繁栄するに至った歴史や栄えていたころの文化といったソフト的な面からも“リノベーション”を行っているといえる。

“まちづくりは街のファンをつくることから”とある。熱海の街を再び活気ある街にするために、著者は第一に地元の人が地元に対して肯定的になること、地元の人に地元の魅力を知ってもらうことが必要だと考え、各種の体験イベントを数多く行っている(熱海温泉玉手箱―通称“オンたま”)。数々の体験イベントを通して、地元にこんな面白い場所があるのか、魅力的な人がいるのか、ということが地元の人たちに見いだされ、地元に対する見方が変わっていく過程が記されている。

不動産の“リノベーション”の活動として、著者は自ら空き物件を活用して喫茶店、ゲストハウスを運営すると共に、不動産のメンテナンスを合理化する事業や中古物件を仲介する事業を手掛けている。“街づくり”をうたいながらも、あくまで経営として成り立つ事業でなければならない、という信念を著者はもっている。補助金や誰かからの出資金頼みではなく、事業として持続可能でなければ継続・発展は望めない。
喫茶店は街を変えるきっかけの場となり、ゲストハウスはビジネスとして成り立ちうる事業としつつ、地域外のひとが気軽に熱海を訪れ、さらにリピーターとなる拠点としての役割を持つようになっていっている。ゲストハウスでは、近所の干物屋で購入した干物を自ら焼いて食べるスペースがあったり、泊り客どうしや地元の人との交流が行える飲み屋スペースがあったりする。著者は今後空き物件を活用してゲストハウスを市内に点在させ、それらが連携することでさらに多くの観光客や街のファン(リピーター)を増やす構想を持っている。

“クリエイティブな30代に選ばれる街”にすることを、熱海の中心市街地(熱海銀座)の将来のビジョンに掲げている。自分の仕事や暮らしを自分で作っていくときに一番チャレンジしやすい世代であること、他の世代への波及効果が高いことなどが30代を掲げる理由としてある。そして上記に挙げた活動や、商店街を定期的に歩行者天国にしてマルシェ(海辺のあたみマルシェ)を行うなどの活動を通して、実際に若い世代のクリエーターや事業主が熱海に活動拠点を持つようになってきている。マルシェは、熱海で新規に事業を行いたい人のきっかけ・テストの場となっている。一方で、空き物件の一つを共有ワーキングスペースとすることで、そこを拠点にして事業を行う人たちも出てきている。このワーキングスペース(naedoco)は、法人を登記するときの住所としてもよく、実際にそこを事業所の拠点や支店としている法人も出てきている。

彼らの活動に沿う形で行政も動き出している。行政が主導で「ATAMI2030会議―熱海リノベーションまちづくり検討委員会」が2か月に1回行われるようになっている。2030年の熱海を自分たちで作り上げていこう、具体像を描いていこうという趣旨で、だれでも参加できるものとなっている。行政主催の会議がえてして口だけの人が集まったり苦情ばかりになったりしがちなのに対して、この会議は毎回熱気ある前向きなものとなっているようである。

また、「創業支援プログラム99℃(99℃ーStartup Program for ATAMI2030)」を毎週行っており、起業に向けた勉強会、プレゼンテーション、事業のブラッシュアップを行う場となっている。“このプログラムでは地域の経営者や金融機関などの方々にも関わってもらう場を設けています。また、海辺のあたみマルシェのような場に参加してもらい、顧客と出会い実際に商売を実践する場を提供したり、また私たちの管理する物件でテスト的に運営する機会をつくったりもして、実践を後押しすることをおこなっています” “起業したい人に補助金をつけたり、人件費を出したりという施策が全国各地でありますが、これでは起業家は育ちません。自ら事業をつくりあげる、それを後押しする取り組みこそをしていく必要があるのです。” “創業支援によって2030年までに熱海に新しい企業を100社以上誕生させ、売り上げのトータルで数百億円以上の産業をつくる。これが私の目標です“

この本に書かれている方法論は、とりわけ新しいものではないかもしれない。ここに挙げられているような活動の一つ一つは、これまでにもどこかで行われているような類のものだと思う。一方で、これだけ多面的に、網羅的に活動を行い、それら一つ一つを有機的につなげて発展させていけているのは驚異的に感じる。著者の論理的—感覚的な方法論と情熱と行動力が一つのきっかけとなって地域を動かしていったことが本を通じて感じられる。真似しようと思ってもまねできるようなものではないかもしれないが、著者の取組によって地域再生・地域振興における一つの可能性が示されていることはたしかだと思う。

“街を変えることには時間がかかります。だからこそ、楽しく続けていくことが大事です。そのためには、稼ぐことに向き合うことが大事だと考えています
ー 時間はかかりますが、思い描いたものを実現していくことはできます。たった一人から始めても地域は変わりうるのです。たった一人のちからでは何も変えられませんが、たった一人からでも立ち上がれば、共感してくれる人たちが現れるからです
ー 何か問題や、逆に可能性に気づいてしまったら動き出してみてください。気づいてしまったものの責任というものもあると思っています。その責任を引き受けてみてください。すると引き受けた責任以上の価値を受け取れるのではないかと思います
ー そして未来を、ビジョンを描いてみてください。できるだけ大きなビジョンを。考えるのは自由です。未来を妄想する力も大事だと思っています”


posted by 五人坊主 at 17:39| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2018年05月25日

田舎のパン屋がみつけた「腐る経済」

『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』は、現在鳥取県智頭町でパン作り・ビール造り・飲食店を経営されている渡邊格氏が書いた本。韓国でベストセラーとなるなど、結構話題になった本のよう。以前新聞でとりあげられていて、文庫版を購入していた。
買ってから読むまでに少々間が空いた。購入後ざっと目を通した時の印象では、理屈の粗雑さが気になって、すぐに読む気にならなかったから。先日、ちょっと時間のできた折に、さっと読もうと読み始めると、当初の印象とは違ってきた。理屈が粗雑であるのは当初の印象通りであったが、著者のパン―天然菌に向き合う姿、その感性と行動力は、理屈の粗雑さを補って余りある強さをもって浮き上がってきた。
著者は単行本発行後(2013年)、文庫版ができるまでの間(2016年)に、天然菌を使ってのビール醸造を行い、そのビール製造過程でできる酵母をパン作りへと利用しているとのこと。また、地元の農産物を利用して飲食店事業を行うなどして、地元で雇用を生みつつ、地域づくりの中心的な役割を担っている姿がうかがえる。
このような事業の拡大に対する批判的意見や本に書かれている理屈の欠点への批判は結構あるのではないかと推察するが、本からうかがえる菌に対する感性は素晴らしいし、事業の拡大も「自然過程」のように感じた。

私も、よいもの(野菜)を作ってお客さんに喜んでもらいたい、という思いで野菜をつくっているが、どうも最近は結果としての野菜のほうに主に気をとられて、土つくりがおろそかになっていはしないか、という気がしていた。“ゆっくり、いそげ”の精神で、いま一度土つくりに立ち返って、“よい土を作る→健康でよい野菜を育てる”というベクトルで野菜つくりをしていかないと、という思いが強くなった。
posted by 五人坊主 at 21:04| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

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